「面談で何を話せばいいのか分からない」「結局『がんばっているね』で終わってしまう」。この記事は、部活動・ミニバス・クラブチームで、選手一人ひとりに根拠のある声かけをしたいコーチの方に向けて書いています。面談の前に何を準備し、当日どう進め、数字をどう見せるかを順番に整理します。
本記事はiPad向けバスケ作戦盤&スコアブックアプリ「BoardStrategist」の開発者が書いています。面談の頻度や質問の型について、バスケ指導向けの公的な決まりは見当たりませんでした。ここで紹介するのは、文部科学省・日本スポーツ協会・日本バスケットボール協会(JBA)の資料にある考え方を土台にした、一つの進め方です。
面談の前に準備すること
準備の中心は、その選手について事実として話せることを集めることです。印象だけで話すと、目立つプレーをした選手ほど評価が高くなり、地味な役割を続けている選手のがんばりがこぼれ落ちます。
- 期間を決める: 「夏の大会から今日まで」のように、どの期間の話をするかを先に決めます。期間があいまいだと、数字も話もぶれます。
- 数字は2〜3個に絞る: 得点、リバウンド、ターンオーバー、フリースロー成功率など、その選手の役割に関係する数字を選びます。全部を見せると、選手は何を受け取ればよいか分からなくなります。
- 場面を1つメモする: 「準決勝の第3クォーター、ヘルプに出てスティールした」のように具体的な場面を1つ用意しておくと、数字に意味が乗ります。
- 前回の目標を確かめる: 前の面談で決めた目標があれば、それがどうなったかを最初に一緒に振り返ります。
当日の進め方|4つのステップ
企業の1on1などの面談の解説では、「目的の説明→相手の話を聴く→助言と目標設定」という順番がよく紹介されています。バスケの面談でもこの流れを土台に、次の4つを意識すると話が組み立てやすくなります。
1. 目的を伝え、選手に先に話してもらう
最初に「今日は夏から今までを振り返って、次の目標を一緒に決めよう」と目的を伝えます。続けて「自分ではどうだった?」と、選手に先に振り返ってもらいます。JBAの指導指針2018は、練習の締めくくりを「選手と一緒に話をする、自己評価をする」と整理しています。練習中のフィードバックについての記述ですが、面談にも生かせる考え方です。文部科学省の「運動部活動での指導のガイドライン」(2013年)も、生徒が自ら考え、課題の解決に取り組む力を指導を通して育てることを求めています。
2. 評価ではなく事実(行動)から伝える
課題を伝えるときは、「いつ・何をしたか・チームにどう影響したか」を事実で述べます。米国のCenter for Creative Leadershipが開発したとされる「SBI」(状況・行動・影響)と呼ばれる型です。たとえば「消極的だった」ではなく、「準決勝の第4クォーター、ノーマークでもシュートを打たずにパスを戻す場面が何度かあった。そのあとショットクロックが減って、難しいシュートになった」と伝えます。カメラに映る事実だけを言葉にするので、選手は言い訳を考える前に、その場面を思い出せます。
3. 良い点から始める
JBAの指導指針2018は、自信を得るには指導者や仲間からの肯定的なフィードバックが必要で、自信をなくしかけた子には少しでもできれば褒める、と記しています。面談でも、まず数字や場面で確認できた良い点から伝えます。「ターンオーバーが前の期間より減っている」のように、本人が気づいていない伸びを数字で示せると、言葉だけで褒めるより具体的になります。
4. 次の目標は本人と一緒に決める
目標はコーチが一方的に渡すのではなく、選手に考えてもらい、一緒に言葉にします。「シュートをがんばる」より「次の大会までにフリースロー成功率を今より上げる」のように、具体的で、少し難しいけれど届きそうな形にするのがおすすめです。心理学の目標設定理論(ロックとレイサム)でも、漠然とした目標より具体的な目標のほうが成果につながりやすいとされています。決めた目標は書き残し、次の面談の最初に確かめます。
数字を見せるときに注意したいこと
数字は見せ方を誤ると、選手を傷つけたり誤解させたりします。以下は、スコアブックアプリを作ってきた開発者としての考えです。
- 試合数が少ないうちは数字がぶれる: 1〜2試合のシュート成功率だけで「苦手」と決めつけないように注意したいところです。
- 出場時間をそろえて見る: 出場時間が違えば、得点やリバウンドの合計も変わります。合計だけで比べず、出場時間を一緒に確かめるのが安全だと考えています。
- 役割によって出やすい数字は違う: ガードとセンターに同じ物差しを当てはめないようにしたいです。
- 数字に出ない貢献を添える: 声かけ、スクリーン、守備での位置取りなどは数字に残りにくいプレーです。数字の話のあとに、コーチが見ていた場面を添えます。
- 比べる相手は本人の過去: チーム内の順位を見せると、面談が他の選手と比べられる場になりやすいと考えています。前の期間の本人と比べるのが基本です。
育成年代の面談で気をつけること
文部科学省の「運動部活動での指導のガイドライン」は、生徒の人間性や人格の尊厳を損ねたり否定したりする発言や行為は許されないとしています。また、指導の目的や内容が成長のために適切であることを生徒に伝え、理解させたうえで取り組ませることを信頼関係づくりとして挙げつつ、「信頼関係があれば体罰等も許される」という認識は誤りだと明記しています。
日本スポーツ協会の「スポーツ指導者のための倫理ガイドライン」は、プレーヤーの成長を支援することを軸にした「プレーヤーズセンタード」を掲げ、倫理問題が起きやすい要因の例として指導者とプレーヤーの間の権力関係を挙げています。1対1の面談は、指導者の立場が強くなりやすい場です。課題を伝えるときも人柄ではなく行動について話す。この線を守ることが、数字を使う面談の前提になります。
ミニバスの子どもには、長い面談よりも練習の合間の短い対話のほうが合うこともあります。これは経験からの考えですが、数字は1つだけ見せて「ここが伸びたね」と伝えるくらいで十分だと思います。
面談の手元資料をアプリで用意する
BoardStrategistには、スコアブックで記録した試合から選手ごとの資料を作る「選手カルテPDF」があります。月・大会・シーズンなど、名前と期間を決めて登録した「チーム期間」を選んで作る仕組みで、1人ずつでも、全員分をまとめてでも書き出せます。
1ページ目には、その期間の平均スタッツ(平均出場時間や+/-を含む)、ショットチャート、1試合の最高記録、コーチコメント欄が並びます。コーチコメント欄は「良かった点」「課題」「自由コメント」「次の目標」の4つに分かれているので、ここまで紹介した面談の流れとそのまま対応します。2ページ目以降には、状況別やクォーター別の得点、スタッツの推移、自動所見、試合ごとの記録が続きます。自動所見は、試合数や試投数が一定に満たない項目では出ない作りにしています。
保存したカルテは選手の詳細画面の「カルテ履歴」に期間ごとに残るので、次の面談で前回の目標を開き直せます。カルテに載る内容や一括作成の手順は、選手カルテPDFの紹介記事にまとめています。
よくある質問
Q1. 選手面談はどれくらいの頻度と時間で行えばよいですか?
A. バスケ指導向けの公的な基準は見当たりません。企業の1on1では月1回から隔週程度を目安にする例がありますが、部活動やクラブにそのまま当てはまるとは限りません。一つの目安として、大会やシーズンの区切りごとに短い時間で行い、無理なく続けられる頻度を優先するのがよいと考えています。
Q2. 面談では選手とコーチのどちらが先に話すべきですか?
A. 選手が先に話す流れをおすすめします。JBAの指導指針2018は練習の締めくくりを「選手と一緒に話をする、自己評価をする」と整理しており、文部科学省の運動部活動ガイドラインも、生徒が自ら考えて取り組む力を指導を通して育てることを求めています。コーチの評価は、選手の振り返りを聞いてから伝えます。
Q3. 悪かった点はどう伝えればよいですか?
A. 「いつ・何をしたか・チームにどう影響したか」を事実で伝えます。「やる気がない」のような人柄への評価は避け、行動について話します。文部科学省の運動部活動ガイドラインは、生徒の人間性や人格の尊厳を損ねたり否定したりする発言や行為は許されないとしています。
Q4. ミニバスの小学生にも同じ面談をしてよいですか?
A. 流れは同じで構いませんが、時間は短く、見せる数字は1つに絞るのがよいと考えています。JBAの指導指針2018は、自信をなくしかけた子には少しでもできれば褒めることを勧めています。面談でも、確認できた良い点から始めるのが基本です。