「AとBを一緒に出すと流れが良くなる気がする」。ベンチでそう感じていても、根拠を聞かれると答えに詰まることがあります。この記事は、部活やミニバス、クラブチームで交代や選手の併用を考えているコーチに向けたものです。自分のチームの試合で5人組ごとの得失点差を記録し、相性の傾向をつかむ方法を整理します。
本記事は、iPad向けバスケ作戦盤&スコアブックアプリ「BoardStrategist」の開発者が書いています。ここで扱うのは、NBAのような大量データを使う統計手法ではありません。現場のコーチが自分のチームで続けられる、傾向をつかむための簡易的な目安です。
ラインアップ分析とは
ラインアップ分析は、コートに同時に立った5人組(ラインアップ)ごとに、その5人が出ていた時間の得点と失点を集計して比べる方法です。もとになる数字は+/-(プラスマイナス)で、コートにいた間の得失点差を表します。たとえば、ある5人組が出ている間にチームが10点取り、相手に6点取られたなら、その5人組の+/-は+4です。
選手1人ずつの+/-は、一緒に出ていたチームメイトや対戦相手に大きく左右される数字です。そのため、個人の+/-をそのまま選手の評価にするのは誤りだと指摘されています。5人組を単位にして見ると、「誰が良いか」ではなく「どの組み合わせのときにチームが点差を広げているか」を問う形に変わります。交代や併用の判断に使いやすいのは、こちらの見方です。
記録に必要なのは交代のタイミングだけ
ラインアップ分析に特別な記録は要りません。必要なのは、選手が交代したタイミングと、その時点のスコアです。交代から次の交代までの区間(スティント)ごとに得点と失点を出し、その区間にコートにいた5人組へ足していきます。
紙で付ける場合は、交代のたびにスコアと時間を書き留めておき、試合後に区間ごとの得失点差を5人組ごとに合計します。5人組の数が増えると集計の手間も増えるので、まずは出場時間の長い組み合わせから見るのが現実的です。
数字を読むときの3つのポイント
出場時間とポゼッション数をそろえて比べる
+/-は出場時間が長いほど大きくなりやすい数字です。10分出た5人組の+6と、2分出た5人組の+4を同じ物差しで比べることはできません。比べるときは、攻撃回数(ポゼッション)あたりの得点と失点に直すと公平になります。100ポゼッションあたりの得点がオフェンスレーティング(OffRtg)、失点がディフェンスレーティング(DefRtg)、その差がネットレーティング(NetRtg)です。考え方はオフェンスレーティングの記事でくわしく説明しています。
対戦相手の5人も見る
得失点差は、自分たちの5人だけで決まるものではありません。相手が主力を休ませている時間に出た5人組は、数字が良く出やすくなります。数字が良かった時間帯に相手がどんな選手を出していたかも、あわせて確かめましょう。
2人の組み合わせから見る
5人組は組み合わせの数が多く、同じ5人がそろう時間は短くなりがちです。そこで、「AとBが同時に出ている時間」のように2人や3人の組み合わせで集計すると、データが集まりやすくなります。相性が気になる2人がいるなら、まずその2人の同時出場時間の得失点差を追うところから始めるとよいでしょう。
1試合の+/-で判断しない
ラインアップ分析で一番気をつけたいのは、サンプルの少なさです。単一試合や短い期間、小さなサンプルで+/-を評価すると大きな誤解の元になる、という指摘があります。ある5人組が1試合で+8だったとしても、それが相性によるものか、たまたまシュートが入った時間帯だったのかは区別できません。
NBAでは、この弱点を補うためにAPM(Adjusted Plus-Minus)という指標が使われています。重回帰分析でラインアップの影響を調整し、優れたチームメイトと長く一緒に出ているだけで数値が高くなるという+/-の欠点を、ある程度補正する手法です。ただし、APMのような手法はNBAクラスの大量のデータを前提にしています。部活やミニバスの試合数では、統計的に不安定になりやすいと考えておくべきです。専門家の間でも評価は割れており、NBAのグレッグ・ポポビッチ氏は+/-系の指標を「まやかし」と評したことがあります。
部活やミニバスでの実用的な使い方は、数字で結論を出すことではありません。複数の試合にわたって同じ傾向が続くかを見ることです。1試合で気になった組み合わせを次の試合でも追い、何試合か続けて同じ傾向が出たら、起用を考える材料の1つにしましょう。
スタメンは+/-だけで決めない
数字が良い5人組を、そのままスタメンにすればよいわけではありません。スタメンの人選には、ポジションのバランス、チーム全体の底上げ、試合終盤の勝負どころを見据えた起用など、単純な+/-の高さとは別の判断が関わります。ラインアップ分析は、コーチが感じていた手応えを確かめたり、見落としていた組み合わせに気づいたりするための材料です。決めるのはコーチ自身だという前提で使ってください。
BoardStrategistでラインアップを集計する
BoardStrategistのスコアブックでは、試合中に交代を記録しておくと、試合のスタッツ画面にある「ラインアップ」タブで5人組ごとの数字を自動で集計します。表示する項目は次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 時間・+/- | 5人組の出場時間と、その間の得失点差 |
| PTS・PA | その5人組が出ていた間の得点と失点 |
| POSS | ポゼッション数(記録から推定した値) |
| OffRtg・DefRtg・NetRtg | 100ポゼッションあたりの得点・失点とその差 |
| eFG%・TS%・相手eFG% | シュートの効率と、相手のシュート効率 |
| AST/TO比 | アシストとターンオーバーの比率 |
同じタブの「コンボ」では、2人以上の組み合わせごとの出場時間、+/-、OffRtg・DefRtg・NetRtgを見られます。「区間レーティング」では、交代ごとの区間のOffRtgとDefRtgを確かめられます。複数の試合をまとめて見たいときは、スコアブックの全選手スタッツ画面にある「ラインアップ累計」タブが便利です。前の章で書いたとおり、1試合より何試合かの累計で傾向を見るのがおすすめです。
なお、交代を記録していない試合では「交代データがありません」と表示され、集計できません。ラインアップ分析はProでご利用いただけます。
よくある質問
Q1. 部活やミニバスのレベルでも+/-に意味はありますか?
A. 意味はあります。ただし、試合数が少ないシーズンでは参考程度に留めましょう。1試合の数字で判断せず、複数の試合で同じ傾向が続くかを見るのが基本です。
Q2. 「この2人は相性がいい」をどう客観的に示せますか?
A. その2人が同時に出ている時間帯の得失点差を、継続して記録して比べます。単発の好調な試合だけで判断しないことが大切です。
Q3. オン/オフと+/-はどう違いますか?
A. オン/オフは、ある選手が出ているときと出ていないときの得失点差を比べる方法です。+/-は、その選手が出ていた時間の得失点差の合計です。どちらもサンプルの大きさと対戦相手の影響を受ける点は共通しています。
Q4. APMやRAPMのような指標を自分のチームで出すべきですか?
A. 部活やミニバスではおすすめしません。APMなどの高度な統計はNBAクラスの大量データを前提にした手法で、少ない試合数では数値が不安定になりやすいからです。まずは5人組や2人組ごとの得失点差を、出場時間やポゼッション数とあわせて見るところから始めてください。